魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ほう……ずいぶんと腕のいい魔導具師だな」

 そこから出て来た魔石と術式盤の姿に彼は感嘆する。

 魔導具に使用する魔石から魔力を抽出できるようにするには、熟練の加工が必要だ。取り付ける魔導具の本体に形状を合わせることはもちろん、力の伝達がスムーズにいくように、魔石に傷や罅が入らないよう細心の注意を払わないといけない。その上で慎重に中心部まで穴を開け、術式盤と同じく特殊な製法で作られた金属線を接続する。

 これが腕の悪い職人のものだと、開けた穴の周りに微細な(ひび)が入り、起動時に魔力が流れるのを阻害する。すると余分な魔力を消費して、すぐに魔石は使い物にならなくなる。しかし、この魔石の接続部には、余計な傷がひとつもない。

 加えて、術式盤に刻まれた魔術の命令も寒気がするほど整然としている。術式盤へ伝わった魔力は、接続部の端から順々に伝わり、魔術の命令文に接すると、それを段階的に実行していくのだが……文に乱れがあれば、その速度に差が出る。ザドはものの試しに、この邸宅にある最高級の魔導具を右手に、男が持ってきた魔導具左手に持って同時に起動し、床に向けて傾けた。
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