魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ファークラーテン家の魔導具は、実際にザドが経営する店で売り出している、かつてサンジュが作っていた最高級のものだ。それが水を生み出す速度は、並のものの倍以上速いはず……。

(――――なんだと!?)

 だが、示された結果は想像の真逆だった。足元の絨毯にわずかとはいえ先に水たまりを作って見せたのは、男が持ってきた、謎の人物の手掛けたものの方だった。

 そのことにしばらく放心し、ザドを中心として暗い水の染みが広がっていく。そして彼の唇の笑みも、薄っすらとしたものから次第にはっきりとしたものへ変わっていった。

「そこにいたかぁ、サンジュ……!」

 ザドは今まで家で使っていた水差しの方を放り捨てると、今しがた手に入れたものの表面をべろりと舐める。
 辺境の野蛮人に、いや、王都にいる誰にもこんな高精度な魔導具を作れるはずがない。王都から姿を消したサンジュになんらかの変化が起き、さらに彼女は腕を上げたのだ――。

「ふははははは! ほら貴様ら、金をくれてやるからとっとと出て行け! 仕事の時間だ!」
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