魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 予感を確信に変え、彼らに金貨袋を投げつけると、ひとりになった室内でザドは考えを巡らせる。

「さぁて……ここで問題がある。あいつがひとりであんな遠方まで辿り着き、自力で金を稼いで店を出した? ありえねぇ……誰か後援者(パトロン)がいるはずだ」

 そこからさらに、想像を進ませる。それがどこぞの商人風情か何かだったなら、金を握らせて黙らせれば済む。しかしそれが貴族だったら? それも自らの土地を持つような有力貴族であれば、厄介なことになる。

 サンジュが当家の娘であるということは、少し調べればすぐに分かるはず。それが分かっていてこちらに返さないということは、こちらとことを構える覚悟があるということか。そしてサンジュが店を出した時点で、魔導具が無限の富を生み出すことは向こうも重々承知のはず。簡単に手放したりはしないだろう。

(ならば、あいつが帰りたくなるように仕向ければいい。どういう経緯でサンジュを連れて行ったのかは分からねえが、向こうも家族に無断で娘を連れ出した正当性を簡単には証明できねえだろうしな。くくく……久しぶりにデカい勝負になりそうだ)

 力の強いものと真っ向から戦っても得はない。必要なものさえ盗んでしまえれば自分の勝ちだ。気に入らないならサンジュを取り戻し、力を蓄えた後で改めて叩き潰せばいい。
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