魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 それに加え、ファルメルの街の代表者たちに請われて、暗くなった街路を自動で照らす魔導灯や、水無限のピッチャーの術式盤を利用した貯水施設など、大型の魔導具を建設する計画も立ち上がる気配を見せているが……そちらはあまり熱心に携わるつもりはない。  
 店舗経営の傍らそんなことに携われば、どれだけ手があっても足りないというのもあるし、私たちはあくまでこの街の身近な魔導具店という立ち位置を貫きたいのだ。

 魔導具という技術がこの地方に広がりゆくにつれて、きっとそういう新しいことに情熱を注ぎたいという人がどんどん現れるだろから、そちらはそういう人たちにお任せして、自然な成り行きで発展するのを見守っていきたい。私たちは私たちのやれる方法でこの地を豊かにし、たくさんの人々の笑顔のもとを作り出してゆこう――そんな方向性でリラフェンとは意思を共有した。

 さて、本日のお仕事であるが、実はある催しのため半日営業となっている。
 開店直後の賑わいも落ち着き、正午近くの大体客足が途切れたところで新しく入るお客様を止め、最後のひとりを送り出すと、私たちは慌ただしく身支度を整えようとした。

 そこで、ぎりぎりで駆け込むようにある人たちが魔導具店を訪れる。

「すみません、配達遅くなっちゃって!」
「すまんのう、中々顔を出せずに」
「ルシルさん、それにオルジさんも」
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