魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 しかしディクリドは、その質問にも取り合わない。

「どうでもいい。えり好みしては始まらんといったのはお前だろう。ハーメルシーズ家にとって有益で、そして忍耐強く、信が置け、いざという時に自分の命を領地のために捨てられる人物。その条件を満たしているのならばなにも言うまい。後は……」

 中々に厳しい条件を突き付けながら、ふと考えるように、ディクリドは言った。

「俺を恐れずに物を言える人間であればいいがな……」
「そうですね……」

 それにはフィトロも同意した。
 黒髪に険のある眼差し、そして周りより頭一つ抜きんでた長大な体躯はともすれば女子供にとって畏怖の対象となり得るものだ。そのことはディクリドに過去、戦場で助けようとした人々から逃げ出されたりと、いくつかの苦い記憶を与えている。そのことをよく知るフィトロは、彼を励ますように言葉を添えた。

「ふふ……体格に似合わないその繊細さも、僕たちはあなたの長所のひとつだと思っていますよ」
「お前に気に入られても意味はないがな。ともかく……この件はお前に任せた。適当な相手を早い内に見繕っておいてくれ。次の戦がいつあるかわからんしな」
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