魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 それはファルメル北西区の鍛冶店で働く、店主のオルジさんと孫娘のルシルさんだった。いつも通り荷台に乗せたたくさんの荷物を、ルシルさんがお店の倉庫へ運び込んでくれる。リラフェンがそれを手伝いながら彼女に話しかけた。

「あんたも大変ねぇ。新年早々扱き使われて」
「子供の頃からだし、うちは慣れてっからね。今日はそっちも参加するの?」
「もちろん! いつもは用意する側だったけど、せっかく外に出たんだし、今回ばっかりは羽目を外させてもらわなきゃ」

 年の近いせいか気を使わずに言葉を交わすふたりを微笑ましく見守りながら、私はオルジさんと世間話を交わしつつ営業後の後片付けを進めてゆく。

「最近はこの魔導具店の噂をよく聞きますぞ。繁盛しているようでなによりじゃ。儂も製造に携わるひとりとして鼻が高い。サンジュ殿、このような老いぼれに活躍の場を与えていただいて感謝しておりますぞ」
「いえいえ……私がこうして魔導具を作れているのはオルジさんのおかげです。知識としては知っていても、私に金属精錬や術式盤の製造はできませんから。ディクリド様もお褒めになっていたように、私の注文を忠実に再現して下さるオルジさんの腕前は、王都のどんな鍛冶屋にだって劣りません」
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