魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 本当に鳥のように目がいい人だ。この場で魔導具のことが取り上げられるとは夢にも思わず、つい辺りを見回してしまうが、私たちの姿が普段と違うせいで誰もこちらに気付かれず、ほっと胸を撫で下ろす。その間にもディクリド様は民衆に、変わりゆく時代に合わせての変化の必要性を説いていった。

「見知らぬ技術が流入することに抵抗を覚えるものも多かろう。しかし、絶えず世では新たなものが産声を上げ、我々も時にはそれを受け容れてゆかねばならない。俺はこの魔導具というものが、今後の世界の在り方を変えてゆくものだと思っている。お前たちの生活を決めるのはお前たち自身で、魔導具をそこに取り入れるかどうかを強制するつもりはない。しかし最初から拒むことはせず、まずは一度自ら目や手でそれに触れ、どう扱うか考えることを勧めておく。この先中央の奴らが訪れた時に、やれ辺境のやつらは物知らずでいかん……などと蔑まれるのもつまらんしな」

 苦笑しながらディクリド様が言った言葉に、民衆たちからも「そうだそうだ。やつらの食う物だって俺たちが作ってるんだ」、「気取った都会の連中に偉そうにされるなんてたまらないわ」などと賛同する声が上がる。
 その声を聞き届け、しっかりと頷き返すと、最後にディクリド様はこう付け加えた。
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