魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ドンホリさんは赤らんだ目でじろりとこちらを見ると、意地悪そうな笑みを浮かべた。

「さてはてめぇら、めでたい席だってのに飯ばっか食って、まぁだ酒のひとつも入ってねぇな。ちぃと待ってろ」

 ドンホリさんは横太りの体を押し込むようにして人混みに割って入ると、お盆にちゃんと人数分のお酒を確保して戻ってくる。

「ほれほれ、今日は日頃の憂さを忘れて騒ぎに来たんだろうが。だったらとっととパーッと飲んで、腹の底に溜まった気持ちを吐きだしちまえ」

 鮮やかなチェリーピンクのロゼワインがそれぞれの手元に配られ、私たちは立ち上がるとグラスを軽く合わせ、それを一気に流し込んだ。

 乾杯の時に口を付けたシャンパンよりもずっと酒精の強いそれが、喉の奥に流れ込み、胃が火を灯したように温かくなる。本格的なお酒を飲むのが初めての私は余韻にむせ返ると、ついくらっと来て隣のリラフェンに肩をぶつけてしまう。

「ちょっと、大丈夫?」
「ご、ごめんなさい……すごいのね、お酒って」
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