魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「リラフェン……」
「なぁに?」
「いつもありがとう……。私ね。とても感謝してるの。あなたや、ここに集っているたくさんの人たちに……。だからこれからもずっと一緒にこの土地で暮らしていきたい」

 いつもなら照れくさくて言えないような言葉を素直に口に出来たのも、お酒の力のおかげだろうか。すると彼女は、私の肩を抱いて、笑顔で囁いてくれた。

「当り前じゃない。今じゃ、たくさんの人たちがあんたのことを仲間だって思ってるんだから、勝手にどこかにいったら許さないんだから。あんたはずっとここにいるの。この中の、ひとりなのよ」

 今までは、傍で誰かが笑い合っていても、疎外されたような気持ちになるだけだった。でもこうして宴に耽る人々の姿を見つめながら……リラフェンがそう言ってくれたことで、私はここにいていいんだと――そう心から、やっと自分で認めることができた。
 その時にはもう、煌びやかな楽の音は遠ざかりかけていて、私は自分の身体が何かふわふわとしたもので包まれているような、とても心地いい気分を味わっていた。

 心が温かい。ここでこうしていると、この世界がこんなにも素敵なのだと思い知らされる。いっそ悲しくなるほどに……。
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