魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
『おや、どうしたの? 眠ってしまったのかな?』
『あ、フィッツ。さっきドンホリさんがワインをくれてね。この子、思ったよりお酒、弱かったみたい。まあでも、幸せそうだからいいか。あら……』
『――ならば、俺が休める場所に連れて行こう。丁度ゆっくりしたいところだったのでな。お前たちも領民のひとりとして、今日はこの宴をしっかりと楽しんでくれ』

 微かに周りから声が届いた後、私の身体はふわりと持ち上げられ、どこかへと運ばれてゆく。
 もはや、定かではない意識の中、鼻腔が記憶に残る香りを感じ取ると、私は親猫を待っていた子猫のように、安心してその体に顔を擦りつけた……。
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