魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ディクリドの指差す方向には確かに王国兵が立っており、フィトロは感心して指示に従う。そのままふたりは女性の後ろを通り過ぎていった。
 その時ちらりとディクリドは抜け目なく女性の横顔を確認する。

(暗い目だな……)

 野花の様に素朴で可愛らしい顔立ちをした娘。だが、そのほつれた赤毛の間から覗く灰の瞳からは、生気がおよそ感じられない。まるで今にも、そこから儚く消えようとしているかのように。

(……俺には関係のないことだ)

 ディクリドは厄介ごとの匂いを感じ、視線を切ると足早に進みゆく。フィトロもそれに続き、ふたりが橋の袂を渡り切ろうとした時。

 ――トプン。
(――――ッ!!)

 都の喧騒に掻き消されるほど微かな水音が聞こえ、ディクリドは振り返り、背中に嫌なものを走らせる。
 先ほどまでそこにいた娘が、いない――。
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