魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
(仕方あるまい……!)
ディクリドは、その身の内に眠る力を解放する。
己の人差し指を齧ると、目を閉じ強く歯を立てる。金臭い血の味が舌に感じられた瞬間、ある時の記憶とともに、彼の身体に変化が起きた。
今まで漆黒だった頭髪がその瞳と同様の金色に変わり、瞳孔がすぼまると、鋭い牙と爪が伸びだし、体の各所を体毛が覆ってゆく。
(見えた……!)
光り輝く金色の瞳で視界の端に沈みゆく女性の姿を確認すると、彼は急速に潜航し、その襟首を咥えた。娘にもう意識はないようで、異様に重い。本来浮いてくるはずの身体が沈むのは、この身に縛り付けられた道具袋が原因か。
鋭く伸びた爪牙で切り離すこともできたが、それよりも、今の身体ならばさっさと水の上に上げた方が速い。ディクリドは獣の筋力で水面を目指して泳ぎ、顔を出すとそのままの勢いで娘を抱えて堤防の上へと飛び上がった。
どさりと水を吸った衣服を纏う娘を横たえるが、彼女は息をする様子がない。水を大分飲んだか。
ディクリドは、その身の内に眠る力を解放する。
己の人差し指を齧ると、目を閉じ強く歯を立てる。金臭い血の味が舌に感じられた瞬間、ある時の記憶とともに、彼の身体に変化が起きた。
今まで漆黒だった頭髪がその瞳と同様の金色に変わり、瞳孔がすぼまると、鋭い牙と爪が伸びだし、体の各所を体毛が覆ってゆく。
(見えた……!)
光り輝く金色の瞳で視界の端に沈みゆく女性の姿を確認すると、彼は急速に潜航し、その襟首を咥えた。娘にもう意識はないようで、異様に重い。本来浮いてくるはずの身体が沈むのは、この身に縛り付けられた道具袋が原因か。
鋭く伸びた爪牙で切り離すこともできたが、それよりも、今の身体ならばさっさと水の上に上げた方が速い。ディクリドは獣の筋力で水面を目指して泳ぎ、顔を出すとそのままの勢いで娘を抱えて堤防の上へと飛び上がった。
どさりと水を吸った衣服を纏う娘を横たえるが、彼女は息をする様子がない。水を大分飲んだか。