魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 そこへ、橋の袂から回り込んできたフィトロが合流してくる。彼が懐に携えていた長布を手渡すと、屈んでいたディクリドはそれで顔を隠すように巻き付けてゆく。
 一瞬、彼の顔が明るい灯火の下に晒された。

 ――半獣。

 娘が気を失ったのも無理はない。なぜなら、今のディクリドの顔つきの半分は獣毛でおおわれ、口元には鋭い牙まで生えそろっているのだから。

 彼はそれを布で隠し溜息をつくと、そっと娘を抱き上げ、従者であるフィトロと共に夜の闇に紛れていく。

狼変化(ウェアウルフ)】――。
 それこそがディクリドの身に顕れた魔術であり……戦場を駆け抜け、戦の終わりまで敵兵を屠り続ける神々しいその姿は周辺諸国から恐れられ、“ノルシェーリアの高き壁”、あるいは“不滅の金狼”と、そう呼ばれていた。
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