魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「……あ、うん。すぐに行くわ」

 この場で改めようと思えばそうすることもできたが、私は取りあえず後回しにしてそれを、衣装のポケットに放り込み、お店の入り口に走る。

 店舗前にはすでにちらほらと開店前から数人のお客様が並び始めていた。
 この辺りの住民で必要な人たちにはだいぶ行き渡ったことだろうと思うし、他領から買い付けに来た商人などや、もしかすると急遽魔導具の修理や魔石の交換が必要で朝早くから来てくれた人たちかもしれない。今日も忙しくなりそうだ。

 彼らに愛想笑いを向けながら店内に戻ると、リラフェンが先輩らしくルシルに仕事の手順を力説をしている姿が目に付いた。彼女は教え上手だし、ルシルも素直にそれを聞いているから、きっとすぐに戦力になってくれるだろう。やる気に溢れた彼女たちに倣って、本日もしっかり働こうと、私は気合を入れ直す。

 ――その日を最後に、まさかしばらくお店を離れることになるとは思わずに……。




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