魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー（ザ・マーグレーヴス・パーベヤー）

　ならば、そうならないうちに先んじて周りの国家を攻め滅ぼしてしまえばという話になるかも知れないが……そんなことをしようとすれば、周辺諸国は反ノルシェーリアという大義名分を掲げて結束し、逆に当国が存亡の危機に陥ることになるだろう。

　幸い、ノルシェーリア王国は豊かな大地による資源の生産力に優れている。故に積極的な侵攻を控えて自国の防衛に務め……経済による優位性を取りつつも協力関係を結ぶ、あるいは困窮した国家が国土を売り渡すのを待つなどして味方を増やし、侵略国家を牽制していく構えだ。

　だが、それにより平和を手にするには、長い時間がかかる。経済的困窮に陥り、民衆が飢えに苦しんだとて、為政者はおいそれと国を手放そうとはしない。彼らが奇跡的に悔い改めるか、もしくはそれを覆す、新しい英雄が現れるのを待つか……そんなことは百年に一度起きればいい方なのだ。

　そして……無論当国もまっさらなままではいられない。他国内で世論を誘導したりと、色々な工作活動を行っている。それらが功を奏すということは、すなわち他国が荒れて多くの人間が苦しむいうことだが……そうと知りつつも、自国民のためにはそれを願わずにはいられない。多くの民を預かるディクリドとしては複雑な心境だった。