魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
(自国の利益を守るために、他国での内戦を煽り、見知らぬ民に血を流させる。これでいいのかという思いはあるが……このような甘い考えで迷いを持てば、滅ぼされるのは我々の方か)

 たとえ戦う相手が自分たちにとって敵であっても、彼らにも愛する者や守るべき家族がいるのは、一度相まみえればわかることだ。 
 しかし、それは戦場に持ち込んではいけない理屈でもある。無用な殺しをするつもりはないが、一方で攻めてくる敵に手心を加えれば、それは後日何倍や何十倍の禍根となって返され、自分たちの次の世代に降りかかることだろう。

 苦しみを家族たちに持ち越すわけにはいかない――そんな思いで多くの将兵が剣をぶつけ合い、勝とうが負けようが胸にたくさんの傷を刻み付けられて戻ってくる。戦場とはそうした残酷な場所であった。

(いっそ、神とやらがすべての民を束ね導いてくれたらと思うがな)

 ディクリドは嘆息する。生き延びる上で様々なものを糧とする以上、この世は奪い合うことが前提だ。そうならぬように、もし反抗しようのない絶対的な支配者が現れ、民が不平等のない生活をもたらしてくれるならば……。
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