魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
そうだ、私は都合よく忘れていた。
以前はいつだって、こうした他者への憎しみや嫉み、妬み、といった感情を胸の中に抱いていたではないか。この街の空気を吸う度に自分の汚い部分を思い知らされる気がして、気持ちはさらに重くなった。この街にいると、少しは変われた自分自身が、もとに戻ってしまうのがただただ怖い。
その内に覚えていた道を辿り、私はファークラーテンの屋敷の前に行き着く。
「あの……」
しばらくはその場に立ち尽くしていたが、私は観念して門の前に近付き、左右に別れて佇む守衛を見上げた。だが、なにを言えばいいのかも分からない。
黙りこくった不審な女を見た彼らはそれを追い払おうとするが、わずかな間の後、さすがに末娘が戻ってきたと気付いたようだ。冷たい視線で見下ろしてくると、舌打ちした後すげなく告げた。
「少々お待ちいただけますか。確認を取らないといけませんので」
私がサンジュ本人であることくらい、見ればわかろうものなのに。単なる嫌がらせで私はその場で三十分ほども足止めされた。その間にも、敷地を通り過がる使用人たちから、くすくすと冷笑が向けられる。
以前はいつだって、こうした他者への憎しみや嫉み、妬み、といった感情を胸の中に抱いていたではないか。この街の空気を吸う度に自分の汚い部分を思い知らされる気がして、気持ちはさらに重くなった。この街にいると、少しは変われた自分自身が、もとに戻ってしまうのがただただ怖い。
その内に覚えていた道を辿り、私はファークラーテンの屋敷の前に行き着く。
「あの……」
しばらくはその場に立ち尽くしていたが、私は観念して門の前に近付き、左右に別れて佇む守衛を見上げた。だが、なにを言えばいいのかも分からない。
黙りこくった不審な女を見た彼らはそれを追い払おうとするが、わずかな間の後、さすがに末娘が戻ってきたと気付いたようだ。冷たい視線で見下ろしてくると、舌打ちした後すげなく告げた。
「少々お待ちいただけますか。確認を取らないといけませんので」
私がサンジュ本人であることくらい、見ればわかろうものなのに。単なる嫌がらせで私はその場で三十分ほども足止めされた。その間にも、敷地を通り過がる使用人たちから、くすくすと冷笑が向けられる。