魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「そしてハーメルシーズ領に、私の代わりの魔導具師を、どうか……」

 すると、彼はにこやかな顔のまま近付き、私の顎を引き上げた。

「いいぜ……お前の希望を叶えてやろう。そうかそうか……そんなに向こうでの生活が楽しかったか。なぁ、そこまで望むなら、かわいそうなお前をこの家から出してやろうか?」
「え……?」

 突如目の前に希望の糸が垂らされ、私は信じられない気持ちで彼に縋りついた。

「本当ですか!? そうしていただけるならなんでもします! この家でいた時のように、私の発見したすべての功績をあなたにお譲りします! ですから……」

 私はなおも目の前で頬笑みを絶やさないザドに一縷(いちる)の望みを託そうとした。
 今までの彼の私に対する仕打ちから、そんなことはありえないことだと分かっていたのに……。

「嘘だよ」
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