魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ぼさついた乱れ髪をした鏡の中の私はみっともなく震え、涙を流しながら笑むという、ちぐはぐな表情を浮かべている。自分の身体を貫く痛みを想像すると、恐怖を通り越して吐き気まで覚えてくる。

 それでも、運命が私を簡単に死なせてくれないというのなら……何度でもやるしかない。

 ――今の私に必要なのは、自分で自分に手を下す勇気で……そうすることでしか私は幸せになれない。無理やりそう思い定め、私はできる限り勢いを付けようと遠くに手を伸ばす。

(――どうか神様……今度だけは私を静かに眠らせて下さい……)

 それだけを祈り、腕に力を込める。滲み出る汗で滑らないようにペン軸の端を押さえ、勇気を……勇気を出してと、自らに念じ。

 ――カチャリ。

 突き出す一歩手前。ドアが開き私は入ってきた人物と目が合った。
 その金色の目が、私を助けた化け物のものと同じだと気付いたことで、腹の底でわっとなにかが燃え上がった。
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