魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 彼が部屋を出て行った後も、私は脱力したまま、涸れるまで涙を流し続けた。

 もう二度と、ハーメルシーズ領には帰れない……大好きな皆にも会えない。
 そんな実感が胸に確かに湧いていた――。



 ――そうして今、私はここで、すべてが終わるのをただ待っている。

 こんなことになるならば……大人しく運命を受け入れ、心を閉ざして彼らの言うがまま、道具としての生をまっとうしていればよかったのか。
 あの多くの温かい人たちとの出会いは、無意味だったのだろうか。

 その答えは出ないままに法廷への扉は開く。
 扉の向こうへと続く“真紅”の絨毯が道を示し……そして。

「これより、原告ウドニス・ファークラーテンの訴えによる、被告人サンジュ・ファークラーテンが引き起こした契約不履行に関しての、賠償責任を問う裁判を開始する!!」

 大勢の人の気配と共に無慈悲な宣言が放たれ、目の前で結果の決まりきった舞台が幕を開けた。
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