魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「しかし被告は、その契約を遵守せず姿を(くら)まし、遠く離れた場所で習得した技術を使って不当に利益を上げ、奢侈(しゃし)に耽る生活を続けようとした。よって原告側は、被告に契約の正しい履行を求め、魔導具の売却で得た金銭を没収するとともに、賠償として彼女と協力者の所有物であった店舗物件の権利書を譲り渡すことを求めます! ……原告側の主張は以上です」

 周囲から漏れる傍聴人の声はほとんどが納得の響きだ。それだけではなく傍聴席からは、「育ててくれた恩を仇で返すとは……ごくつぶしめ!」、「賠償だけでは生ぬるい! 牢屋に閉じ込めてやれ!」など、怒りの声が飛び交った。

「静粛に、静粛に――!」

 カカン、カンッと木槌(ガベル)で三度打撃板(サウンドブロック)が叩かれ、裁判長がその場を収めて、じっとこちらを睥睨(へいげい)した。

「原告側の主張は聞き届けた。次いで、被告側の主張に移る。被告、サンジュ・ファークラーテン、前へ。主張を述べよ」

 裁判長の言葉が響き、私はゆっくりと壇上へその足を伸ばす。

 私に主張できることなど、なにひとつない。私が虐待を受けていたことを見ていたのは、家族と使用人、兄たちに支配されていた魔導具店の従業員数人だけで、すべてファークラーテン家の息のかかったものだけ。その中に私を哀れに思う人がいたならば、今までの生活をここまで苦しむことはなかっただろう。
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