魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 証明できる証拠物も、信頼できる協力者もなにもない。
 ここは、私の罪を決定し、周囲に知らしめるためだけに作られた場所で、もうどうしようもない……そう思ったけれど。

 こんな時でも思い浮かんで来てしまう。あのハーメルシーズ領での日々が。
 わずか数日離れただけでも、その光景は懐かしく……胸の中で光り輝いていて。

 完全に諦めさせられたはずなのに……。

 あの場所に戻りたい――まだ心がそう呼びかけてくる。

(皆、私に勇気を貸してください)

 今から私のしようとすることは、とても恥ずかしいことだけれど……。
 ハーメルシーズ領の皆の顔を浮かべ、せめて、私は為すべきことをしようと顔を上げた。

「被告よ、主張がないようなら、このまま審議に移るとするが、それでよいか」
「いいえ……少しだけお時間をください」
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