魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 裁判長の発言に傍聴席から不満そうな声が飛ぶが、私はそれを無視して、屋敷で飾られた頭から髪飾りを抜いた。
 なにをするのかと緊迫が会場に走ったが、私は周囲に危険なことをするわけではないと目線で訴えかけ、その髪飾りの尖った部分を、ドレスの胸元に当てる。

「お目汚し、失礼します」

 そして……それを刃の代わりに布地を引き割いていく。肩を抜き、肌着も脱いで、羞恥に朱が昇った上半身の大部分が晒されるまでその作業を続けた。

「おい、貴様、神聖なる法廷でなんと恥さらしな!」

 父が怒りの声を上げ、私の行動を止めさせようとする。しかしそれは、裁判長が体に残る異変に目を付けたか、警備のものに目配せをして止めてくれた。ささやかな善意に感謝しつつ、私はドレスの下半分を残して胸だけを手で覆い、醜い生身を白日の下に晒す。

「これが、私が生まれてから受けて来た仕打ちです」

 自分の身体に視線が突き刺さるのを感じながら、私は周りを見渡した。
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