魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
(この人が、私を生かした――)

 その感情は万年筆を突き出す力を後押しし、銀の矢と化したペン先を私の喉元へ一直線に迫らせる――。

 ――ザクッ。

 不気味な肉を抉る感触と共に、ぱたたっと、血飛沫が床の上に飛び散った。

「どうして……」

 しかし、それは私のものではなく……。
 大きな腕が私の目の前を横切り、視界を遮っている。貫かれたのは、室内に飛び込んできた男性の右腕であり、想像していた痛みは訪れなかった。

 私は唖然として背の高い黒髪の男性を見上げる。彼は、強張って離れない私の手を開かせると、腕に突き立った万年筆を引き抜いた。そしてそれを捨て、こんな痛みには慣れているとでもいうかのように、無表情で自分の腕をハンカチで縛る。

「どうして死のうとする」
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