魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「案ずるな。ソエル坊の面倒は儂が見てやるでな。いつかまた、再び兄妹でゆっくり話せる時も来るじゃろう。それよりも、ハーメルシーズ辺境伯、よろしいのか? そちらでは今はマルディール王国と戦の準備をしておったはずじゃが。指揮官不在では民たちが心許なかろうて」
「ご忠告痛み入ります、グローバス侯爵。優秀な配下がおりますゆえ、私が戻る頃には戦の準備も万端整っていることでしょう。やつらは早々に蹴散らし、尻尾を撒いて自国に逃げ帰ってもらいましょう」
「ほっほっほ、これは頼もしいわい。遠方のため、我が領地から参戦できぬのは残念じゃが、物資の支援ならいくらでもさせていただこう。必要とあらば書簡でも送ってくだされ。共にこの国を背負う者として、これからもよき関係を築いてまいろうぞ。ではな」
「此度の礼も兼ねて、また近日中にご挨拶を――」

 目礼するディクリド様に軽く手を挙げ、グローバス侯爵はソエルの後を追った。つくづく、噂を聞いただけでは人というのは判断できないものだ。

「では、当法廷はこれにて閉廷する。列席者は速やかに退席するように!」

 裁判長の挨拶が響き、傍聴人たちはそれぞれ思い悩みながら、粛々と退廷してゆく。
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