魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「人は、本当に争わねばならないんでしょうか」
「おかしな話だな、多くの者が争いなどなくて済むことを望んでいるのに……。人は一度得たものをおいそれと手放すことができん。そして一度生まれたからには、すべてのものが成長する定めを負う。世が便利になり、たくさんの物が生まれるほどに、国も、欲望も憎悪もまた育つのだろう。……それができなくなれば、待つのは滅びだ」

 自分たちの未来を確保するために区切った境界の内側、人間たちの集合体が国だとするならば、その性質は人と似たものになるのだろう。もし……世界中が豊かになっても、それぞれの差をなにかに見出し人々の争いが絶えることはないのだとして……。

 ――それでも、私はそうでない未来を願ってやまない。

「でも人には、他の誰かのために苦しいことを受け入れる強さもあるはずなんです……。私たちだって喧嘩はするけれど、お互いのことをちゃんと知っていれば、許し合うことはできるでしょう? 争いはなくならないのかも知れませんけど、少しずつ、その争いが小さくなっていけば……。そうなるように、お互いを恐れて傷つけ合わなくなるように……後ろで帰りを待つ私たちにも、なにかできることがあるような気がして。私は、それを探したい」
「……そうかもしれんな」
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