魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「女性に泣かれるのは、男として辛いところがありますね……」
「もういいのか?」
「ええ、大丈夫です」
問いにわずかに辛そうな笑みを浮かべて答えると、フィトロさんはゆっくりとこちらに近付いて来た。しかし彼もディクリド様の隣に並ぶ頃にはしっかりと背筋を伸ばし、戦地に向かう心構えはできたというように不敵に笑う。
「では、行くか」
馬たちは、こちらの神妙な雰囲気を察してくれたのか、騒がずに大人しく待ってくれていた。ディクリド様は短く告げるとシャルビュ号に跨ったが、発つ前になにかを思い出すようにこめかみを押さえると、私に朗報を教えてくれた。
「そうだ……伝えるのを忘れていた。お前の兄ソエルのことだが、父親から伯爵位を譲り受け、改めて当領の隣に作られていたファークラーテン領の領主として正式に任じられたと、グローバス侯爵から知らせがあった。もし、万が一なにかあったら彼のことを頼るといい」
私には知る由もなかったが、実家から離れていた時分に父ウドニスの命によりソエルが領主代理として遣わされ、新たに移住してきた領民を纏め、暮らしの基盤を作っていたのだという。グローバス侯爵の後押しもあり、引き続き彼がそこの領民を率いることとなったようで、若いが実直な領主として慕われ、今後を期待されているらしい。
「もういいのか?」
「ええ、大丈夫です」
問いにわずかに辛そうな笑みを浮かべて答えると、フィトロさんはゆっくりとこちらに近付いて来た。しかし彼もディクリド様の隣に並ぶ頃にはしっかりと背筋を伸ばし、戦地に向かう心構えはできたというように不敵に笑う。
「では、行くか」
馬たちは、こちらの神妙な雰囲気を察してくれたのか、騒がずに大人しく待ってくれていた。ディクリド様は短く告げるとシャルビュ号に跨ったが、発つ前になにかを思い出すようにこめかみを押さえると、私に朗報を教えてくれた。
「そうだ……伝えるのを忘れていた。お前の兄ソエルのことだが、父親から伯爵位を譲り受け、改めて当領の隣に作られていたファークラーテン領の領主として正式に任じられたと、グローバス侯爵から知らせがあった。もし、万が一なにかあったら彼のことを頼るといい」
私には知る由もなかったが、実家から離れていた時分に父ウドニスの命によりソエルが領主代理として遣わされ、新たに移住してきた領民を纏め、暮らしの基盤を作っていたのだという。グローバス侯爵の後押しもあり、引き続き彼がそこの領民を率いることとなったようで、若いが実直な領主として慕われ、今後を期待されているらしい。