魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「そうですか……。ありがとうございます」
「いや……これで俺も憂いなくこの土地を旅立てる。サンジュ、最後に手を握ってくれるか」
「はい」
倍近く大きな手が馬上から伸ばされて私の手を包んだ。でもそれはひんやりと冷たい……。彼のような歴戦の勇者であっても、戦場へ赴くのは恐ろしいのだ。せめて少しでも心休まるようにと、私はそれを両手で包み込みながら無事を願う。彼は名残惜しそうに一度ぐっと力を籠めると、それをするりと抜いた。
「達者でな、サンジュ」
そうして、優しい笑みと共にフィトロさんと馬首を返すと、ディクリド様は目の前の道を下ってゆく。私は追いかけようとした足をぐっと踏ん張って止める。
本音を言えば、一時も傍から離れず、彼が傷つけられるのなら身を盾としてでも守りたい。でも、それは彼らにとって戦の邪魔にしかなり得ない。
代わりに精一杯、声を張り上げた。
「御武運を――!」
「いや……これで俺も憂いなくこの土地を旅立てる。サンジュ、最後に手を握ってくれるか」
「はい」
倍近く大きな手が馬上から伸ばされて私の手を包んだ。でもそれはひんやりと冷たい……。彼のような歴戦の勇者であっても、戦場へ赴くのは恐ろしいのだ。せめて少しでも心休まるようにと、私はそれを両手で包み込みながら無事を願う。彼は名残惜しそうに一度ぐっと力を籠めると、それをするりと抜いた。
「達者でな、サンジュ」
そうして、優しい笑みと共にフィトロさんと馬首を返すと、ディクリド様は目の前の道を下ってゆく。私は追いかけようとした足をぐっと踏ん張って止める。
本音を言えば、一時も傍から離れず、彼が傷つけられるのなら身を盾としてでも守りたい。でも、それは彼らにとって戦の邪魔にしかなり得ない。
代わりに精一杯、声を張り上げた。
「御武運を――!」