魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 今現在、世に出回っている魔導具はすべて、その偉大な人物がノルシェーリア王国に知らしめた魔術の術式を、そのまま術式盤に転写することで起動している。
 だが、そこにひとつの問題があった。それは、そこからまったく新しい魔導具を作り出せないこと……。

 魔導具の祖とも言われるその偉大な人物が没して以後、新たに魔術の術式を目視することのできる人間は現れていない。
 よって、新たな魔術を再現しようと試みるなら、既存の術式文から、どの言語にも当てはまらない単語ひとつひとつの意味を類推して必要部分を抜き出し、それらを当てずっぽうで組み合わせて、試してみるしかない。

 しかし当然と言うべきか、それで魔術はほぼ発動しない。王国の魔導具局で何十人もの研究者が日夜記号と格闘し、新たな魔術の獲得に挑んでいるらしいが、年間でそれを見つけられるのはよくてひとつやふたつとされている。

 つまり、ファークラーテン家にて魔導具師としての教育を幼少から受けていたにしろ、たかが数年の、作業の傍らで行っていた独学の研究などでそれをふたつも見い出せた私は、このことに関してだけは類い稀なる幸運を持ち合わせているのかも知れなかった。残念なことにその功績は家のものとして扱われ、私に還元されることはなかったけれど。

 そして……その偶然による二度の成功体験が、本日私を三度目の機会に導いた。

「え……ちょっと待って。え、ええ!? 成功した……!?」
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