魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 気のせいか……そう思って視線を切り、扉を閉めようとした時。
 隙間に何者かの手が割り込んでそれを止め、私を店の中に突き飛ばした。

「――――――つぅ……っ」

 腰を打ち、痛みに顔を顰めながら立ち上がった私の目に、逆光が眩しく刺さる。
 しかし次第に目は慣れ、店内に入ってくる人物の姿をゆっくりと映し出した。

「そ……そんな」

 驚きを隠せない私に、その人物の発した声が、目の前の光景が幻覚ではないことを知らせてくる。

「くふふふふ……久しぶりだなぁ、サンジュ」
「……ザド」
「借りを返してもらいに来たぜ」

 凋落し、やつれ果てたファークラーテン家の次兄が、あの時よりさらに笑みを残忍なものに変えこちらを見下ろしている。その手に握られて鈍く光るのは鋭いナイフ。それはまさに、今突き立てんと狙い定めたかのように私の首元へと向けられていた……。
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