魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 今、太陽の位置は丁度真上のあたり。正午に近い時間だ。
 日没後の戦闘は無謀で危険が多いことを考えると、本日中で戦闘に集中できるのは残すところあと六時間。その間なら、かろうじて互角に近い数で戦闘ができる。だが、明日になれば援軍は合流し、数を増した敵本軍は、一気にこのハゼルハイド砦の攻略に乗り出す。

 そうなってしまっては、数の暴力ですべての砦を守り切ることは叶うまい。敵軍はハーメルシーズの大地を踏み、王国軍の到着まで略奪の限りを尽くすだろう。

「今が最後の機か……」

 敵本軍は明日の突撃に備え、なるべく近くまで援軍を呼び寄せるためか、かなり前掛かりの位置に陣取っている。その中にいる相手側の総指揮官を今打てば、敵軍の士気は地に墜ち、撤退させることも可能となるだろう。しかし、それも相手の総指揮官が自身の武勇に絶対の矜持があるからこそだと思われ、それに加えて、倍とはいかずとも確実にこちらの数を上回る兵士を備えているのだ。やすやすとは倒せない。

 かといってここでディクリドが臆し敵軍の合流を許してしまえば、あちらの部隊は十分な余力を持って容易く砦を打ち崩し、ハーメルシーズ領の奥深くまでその牙を届かせるだろう。それだけは絶対に許すことはできない……たとえ、ここに居る将兵たちすべての命と引き換えにしたとしても――。
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