魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
ディクリドは静かに判断を待っていた部隊長たちに命令を下した。
「全軍で出るぞ! 部隊をふたつに分け、一隊を囮として敵を引き付けさせ、もう片方で敵軍中央の司令部を急襲する! 向こうの指揮官は俺が叩く」
「ならば、囮の役目は僕が」
そう申し出たフィトロにディクリドは躊躇う。
確かにフィトロは、この部隊ではディクリドに次いで戦上手の上機転が利く。これまでも多くの戦いで彼の絶妙な采配によって助けられ、切り抜けて来たことは広く周知されており、兵士たちの信頼も厚い。
だが、今回ディクリドは、若すぎる彼に後方の守りを任せ、いざなにかあった時に撤退指揮を取らせるつもりでいた。ハゼルハイド砦を放棄せざるをえなくなれば、国境線は一気に後退する。せめてそうなった折には防戦の指揮をとらせながら、なんとか領民が避難する時間だけでも稼ぎ、生き残った者たちだけでも別の地に逃げ延びさせてやらなければならない。
「……ダメだ。お前にはここに残ってもらう。俺が戻らなかったとき、軍をまとめるものが必要となる」
「いえ、それは僕の役目ではありません!」
ところが……苦渋の決断を迫られたディクリドの指示にも、フィトロは従おうとしなかった。
「全軍で出るぞ! 部隊をふたつに分け、一隊を囮として敵を引き付けさせ、もう片方で敵軍中央の司令部を急襲する! 向こうの指揮官は俺が叩く」
「ならば、囮の役目は僕が」
そう申し出たフィトロにディクリドは躊躇う。
確かにフィトロは、この部隊ではディクリドに次いで戦上手の上機転が利く。これまでも多くの戦いで彼の絶妙な采配によって助けられ、切り抜けて来たことは広く周知されており、兵士たちの信頼も厚い。
だが、今回ディクリドは、若すぎる彼に後方の守りを任せ、いざなにかあった時に撤退指揮を取らせるつもりでいた。ハゼルハイド砦を放棄せざるをえなくなれば、国境線は一気に後退する。せめてそうなった折には防戦の指揮をとらせながら、なんとか領民が避難する時間だけでも稼ぎ、生き残った者たちだけでも別の地に逃げ延びさせてやらなければならない。
「……ダメだ。お前にはここに残ってもらう。俺が戻らなかったとき、軍をまとめるものが必要となる」
「いえ、それは僕の役目ではありません!」
ところが……苦渋の決断を迫られたディクリドの指示にも、フィトロは従おうとしなかった。