魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ディクリド様、あなたこそが、このハーメルシーズ領の要であることは明白だ! 僕はあなたに命を救われた際に誓っています……もしお傍で仕えるのであれば、決して自らの命は省みず、あなたに尽くすと! わが主よ、その誓いを破らせようというならば、いっそこの剣で僕をお切捨てください!」

 フィトロが跪き、生真面目に剣まで差し出したのを前にディクリドはため息を吐いた。

「フィッツ……だが、最も危険な役目を負うことになるのだぞ。お前には、愛する者もいるだろう」

 全軍の注意を一身に引き付け、本隊が敵を撃破するまでの時間を稼ぐ。
 そのためには数に勝る相手に自ら貼りついて攻撃し、脅威を与え続けなければならない。しかも、こちらの軍が作戦を全うするまでどんな苦境に陥ろうとも撤退することは許されないのだ。命を自ら捨てに行くようなもの。

「――構いません。すでに彼女にはそう話しました。名だたる皆様には失礼ですが、この戦において僕以上の囮の適役はいないはずだ。それとも……僕はまだあなたに認めていただけていませんか?」

 それがわかっていて、若き勇士は挑発するように言い切った。
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