魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 総指揮官たるもの、本来ならば戦に負けたときのことも考えて戦力を配分しなければならない。だが、今回ばかりは出し惜しみをして勝てる相手ではないのはディクリドにも分かっている。この数年彼と共に戦場を駆け、生き延びてきた彼が囮役をこなしてくれるなら、勝利へのわずかな光明が見えて来る。

 そして、逡巡するディクリドの前で、次々と部隊長たちが賛同の声を上げ始めた。

「やらせてみようじゃありませんか。なぁに、ディクリド様、こいつほどではなくとも、屋敷に留まっているうちの(せがれ)たちも中々見どころがあります。我々が居なくとも、領民の撤退くらいは率先してやってくれるでしょう」
「そうですぞ。このハーメルシーズ領に暮らす以上、我々貴族はいつでもその覚悟はできております。後方は残して来た者に任せ、フィトロ殿と共に、今は目の前の敵に全力で挑みましょうぞ」

 壁上の全員の瞳が是非を問い、ディクリドは覚悟を決め、深く頷いた。

「わかった……ならばフィッツ、お前に任せよう。皆の者、作戦を伝える。ランツ子爵率いる囮部隊は騎馬隊の大半を率い、右側面から突撃。痛撃を与え、敵軍の主力以外の部隊をすべて引き寄せ、その場に縫い留めてもらう。その隙に俺が迂回した主力部隊を走らせ、向こうの本隊に攻め込む。この一戦で決着を着けるぞ……皆頼む、死力を尽くしてくれ!!」
「「「おおおっ!」」」
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