魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 士気を鼓舞し、ディクリドは将兵たちの顔を眺めた。
 若年者の姿も目立つ。戦の多いこの国境付近の領地では、頻繁に兵は命を落とし、その子が後を継ぐようにまた、若い命を軍に預け、散らしていく。

 だがそのことを厭い、彼らを後ろに下げることはできない。

 いかにディクリドが戦に勝ち続けようとも、犠牲を完全に失くすことなどできはしない。大勢の味方の命を刃に変え、引き換えにより多くの敵を打ち倒すのが、彼らを率いる自分の仕事だ。そしてその刃は、犠牲を躊躇えばたちまち切れ味を鈍らせる。

「すべてはこの地に住む民を……お前たちの家族を守るためだ! 皆、愛する者の顔を思い浮かべろ! 絶対に彼らを侵略者共の好きにさせるな!」
「「「うおおおおおぉぉっ!」」」

 再度の鼓舞により意思を統一し、ディクリドは砦の門に通ずる階段を下った。すでに出陣の準備は完了し、誰も彼もが目に決意を漲らせ、ディクリドの号令を待っている。

 ディクリドは彼らの元に赴くと、兵士に曳かれて来た漆黒の愛馬、シャルビュ号に跨がり声を上げた。
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