魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ――気を失った娘を自分たちの泊まる宿に運んだ、その翌朝。

 ふたりは、彼女の容態を街医者に見せた時、その体に刻まれたいくつもの傷について聞かされることとなった。

『ひどいものです、このような若い娘さんの体の、外からは見えないところばかりをよくも……。特に背中などにはかなり古い傷もありますし、一生跡が残ってしまうでしょう。おそらく、何者かから日常的にひどい虐待を受け育ってきたのだと思われます。なるべくなら、すぐに彼女を今の家庭環境から遠ざけた方がよろしい』

 医者はそれだけ言うと、まだ治り切っていない打ち身や傷に適切な処置を施して、同行していた看護師に彼女を着替えさせると宿を後にしていった。
 その背中を見送った後、ディクリドは静かに横たわる彼女を眺める……。

 安らかに眠っているが、よくよく見れば娘の顔色は不健康に白く、目の下の隈は濃い。着ていた衣装はそれなりのものだったが、身体つきはほっそりとし過ぎて、強く触れれば手折れてしまいそうな印象があった。

『ろくな食事も睡眠も与えられず、これまで生きてきたのかも知れんな……』
『ええ。ディクリド様が助けなければ、彼女は誰にも知られずあの冷たい川の中で生を終えることになったでしょう。未来あるひとりの女性に死を望ませるような扱いをするとは、あまりにも惨い……』
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