魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー（ザ・マーグレーヴス・パーベヤー）

　つまり、今やディクリドたちは、敵軍のもっとも防御の薄い部分に肉薄しており、当然……その突撃は相手にとって甚大な被害を生む。

　敵軍弓兵の列は果敢にも弓矢による反撃を行ったが、それはほとんどが盾によって阻まれ、数瞬後に衛士団の波に飲み込まれた。

「怯むな！　いかに小細工を弄しようと、こちらには数の利がある！　それに数時間後には援軍も到着するのだ！　この攻撃を耐え凌(しの)げば、相手側は退かざるをえん！　その時こそこの借りを何倍にもして返してやれ！」

　それでも、敵総指揮官は未だ冷静に戦況を観察しているようで的確に指示を下す。確かに戦が長引けば長引くほど、ハーメルシーズ側の勝機は薄くなる。そして、こういった事態に備えてか、敵本隊は弓兵も近接戦闘が可能なようにかなり訓練されているようだ。　
　徐々にディクリド率いる衛士団の本隊は、進軍速度が鈍ってゆくかと思われた。しかし……。

「おおおおおぉっ！」

　その勢いはいささかも衰えず、獣のような咆哮と共に敵軍を真っ直ぐ切り裂いて本陣に迫る――。

「来たか、死なずの狼とやらが……！」

　敵総指揮官が先頭を駆ける、他よりも巨大な漆黒の騎影を確認する。