魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 同じ年ごろの妹がいるお前からすれば、他人事には思えまいな――そんな言葉を飲み込むと、ディクリドは厳かに告げた。

『事情はわからないが、すべてはこの娘が目を覚ましてからだ。フィトロ、予定を速め、本日中には王都を出よう。宴に招いてくださった侯爵殿には俺が直接謝罪をしておく』
『わかりました。お供します』

 その後、身なりを整えたふたりはすぐに、王都から帰還する準備を進めた。しかし、たかだか一、二時間で済ませられる短い所要の合間に、まさか娘が二度目の自死を図ろうとは――。



(――お前の絶望の深さを測り切れていなかったのだな……。許せ)

 今も懇々と眠るサンジュの苦しみを思い、ディクリドは眉根を寄せる。
 彼はあの時すでに、命を助けただけではこの娘の問題は解決しないと察していた。にもかかわらず二度目の死の危険に晒したことに、責任を感じていた。

 自殺を止めさせた後、彼女は、自分が父親の不貞から生まれたということや、家族のみならず使用人たちからも疎まれて育ったこと、日常的に道具のように扱われ……気に入らないことがあればひどい折檻を受けていたことなどを、彼に明かした。
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