魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 しかもそれだけでは済まず、身の代を売り渡されるように好色な人物の元に嫁がされ、その後も利用され続ける人生が決まっているのだと、彼女がひどく淡々と涙をこぼしながら語った時には、さすがにディクリドも気分の悪さを隠せなかった。
 そこで精魂尽き果てたか、サンジュは気を失うように腕の中で眠りについてしまったのだが……。

 最後の、「どうか、あの家には帰さないで――」という血を吐くような訴えが、ディクリドの耳の中には今も強く残っている。

「――本当によろしかったのですか? こうして彼女を先方の家に連絡も入れず連れ帰ってしまって」

 やや懸念を感じさせる口振りの割に、フィトロは嬉しそうな表情でディクリドに尋ねた。その期待に応えるかのように、彼は躊躇なく頷く。

「構わん。すべての責任は俺が取る」
「であれば、お気の召すままに……。しかしながら、娘の身元によっては後々問題になってきそうですよ。彼女は近々、誰かに娶られる予定だったと聞いたのでしょう?」
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