魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「ち、くしょう……」

 死の恐怖に囚われたか、ザドももう、罵倒の一言すら吐けないようだ。
 喉が潰れたような声を上げながら後ずさると、ふらふらと立ち上がり、足を引きずりながら去ってゆく……。その際にも一度もこちらを振り返ることはなかった。

 同情は決してできない……けれどその姿を見続けるのは胸が詰まった。もう彼とは、二度と会うことの無いよう、神様に祈るばかりだ。

「……はぁ」

 自身も無傷ではいられず、爆発で開いた穴から戻るとふらついてへたり込んだ。体のあちこちが痛み、店の中を見回せば、惨憺(さんたん)たる有様だ。営業を再開できるには、しばらくの時間がかかることだろう。

 ――ただ…………生きている。

 ちゃんと、今度は自分の力で自らと大事な場所や、人たちを守ることができた。そのことだけは、本当に誇らしい。わずかでもあの時より強くなれたんだという実感がある。
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