魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 肩を竦めるフィトロの心配ももっともだ。親元が大勢力を誇る貴族だった場合、嫁に送るはずだった娘を奪ったということで多額の賠償を求められたり、場合によっては領地同士で内紛が起こることもあり得る。

 だがその危険をディクリドは一蹴してみせた。

「くどいぞ……。実の家族にこのような仕打ちを取らねば利用できぬ者など、ろくな輩ではないことくらいお前にも分かるだろう。そのような小物の言い分など聞いたところで知らぬ存ぜぬで押し通すさ。俺が救った命だ、この娘が戻ることを望まぬ限り、返してやるつもりはない」
「差し出がましいことを申しました。念のため、彼女の身辺を探らせております。いずれ王都の草より報告も来るでしょう。なにかあればその時に」
「ああ……」

 言われずとも適切に動いてくれる抜け目のない配下に満足すると、ディクリドは対面の寝台で身じろぎもせず眠る娘に目を向けた。
 こうして意志の確認もせぬまま遠方の土地へ連れて行こうとしているのも、家族と物理的距離をおくことが、今の彼女の精神の安定になによりも効果的だと判断した上でのこと。
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