魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
「いや……」

 ジェレマインのその問いに数秒の沈黙をもって返した後、ディクリドは大きく息を吸い込んだ。いつまでこうしていても結果が変わるものではない。この場所が敵に渡っていないあたり、すくなくともハーメルシーズ全土が奪われてしまったわけではないはずだ。決断すると、一息に尋ねた。

「戦はどうなった?」
「……しかとご覧くだされ」

 すると、ふっと彼は笑みを浮かべ、再び轡を引いて、砦の内部を指差す。そこでディクリドは気付く。今まで耳の奥を揺らしていた、妙な残響の正体がなんなのか。

 ――……ワアアァァァッ! 

 あまりの緊張のせいで、その大音響はディクリドの耳に届いていなかった。

「ディクリド様―ッ!!」
「我らが主! 英雄ハーメルシーズ伯がお戻りになられたぞ! 旗を掲げろーっ!」
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