魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 いずれ来たる報告により、貴族間で争いの種を抱えたことが判明するかもしれないが、ディクリドは中央の権勢には興味がない。もし国から咎め立てされるようなことがあろうと気を配る必要はないし、万が一武力を行使して来ようというのならば、正面から受けてたつだけだ。

 この娘に手出しはさせない……そんな決意のもと、ディクリドは心の中で娘に励ましを送る。

(……お前は、苦しむために生まれてきたのではないはずだ。報われる日はもう、すぐ傍に近づいている……きっとな)

 そうした意思がわずかにでも伝わったのか……娘の(まぶた)が震えて開き、瞳がこちらへと向く。

「……ここは、王都ではないのですか?」

 ディクリドは寝台の脇によって近付くと、娘を驚かさないようになるべく穏やかに話しかける。

「驚かずに聞いて欲しい。今、この馬車はこのノルシェーリア王国の西端にある、ハーメルシーズ領へと向かっている。お前の話を聞いて、しばらく家族とは距離を取って心と体を休めた方がいいと判断した上でのことだ。事後承諾になってしまったことは謝罪しよう」
「ハーメルシーズ領……。このことを、父たちは……?」
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