魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 王城の料理人に色々教わって、シェフじみた腕前を発揮した彼女の手料理を並べ、私は嬉しそうに眺めた。瑞々しく、色とりどりのベジタブルスティックが挟まれたサラダクレープや、これでもかと上乗せされ、こんがり焼き目の付いたチーズがぷくぷくと気泡を立てているホワイトグラタンは、見ただけで確実に私たちを満足させてくれると分かる。

「さあ、いただきましょ」

 エプロンを外し、テーブルに腰掛けた私たちは食前の祈りを捧げると、それぞれの皿に料理を取り分け食事し始めた。ホワイトグラタンの蒸気を、はふはふと口の中で逃がしながら、リラフェンが顔を輝かせる。

「それでさ。この間フィッツと一緒に出掛けた時のことなんだけど、一緒にレストランに入った時に、奥様だなんて呼ばれちゃって……も~。他の人からそういう目で見られてるのかなって思うと、恥ずかしいけどちょっと嬉しかったんだ。フィッツも女らしくなったって、ことあるごとに褒めてくれるしさ……。優しくて格好いいし、頼りがいあるし本当大好きなの、彼のこと……。そんでそんで次の休みは――」

 とまあ、それからはこんな感じである。ルシルが呆れて帰ってしまうのも無理はない。でもこれでリラフェンが幸せを満喫できているのなら、私としては首を痛めてしまわない程度に頷き続けてあげたいところではある。
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