魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 息も絶え絶えのザドの耳元に、女性はそっと囁きかける。

「でもね、その話はそれで終わりではないのです。だってなにしろ……女性が拾って来た少女は、彼女が命を断つ様を、目の前で見ていたのですから……。ここを、こんな風に突き破って」

 刃は喉の上を浅く滑り、うなじからやがて背中の左上、肩甲骨の下へと移動した。その辺りを刃先で突かれ、ザドは息を詰める。

「ま、さか……親父の頃の話か!? や、めろ……!! そんなの俺には関係ねぇだろ! 金は渡す! 増やしたらすぐに渡す! なんなら俺がお前の後援者になって、一生不自由ない生活を与えてやる! 服も男もよりどりみどりだ! それでいいだろ、金さえあれば、人生どうとでもなる! それならお前は幸せになれるだろ!」
「じゃあ、そのお金で、私のお母さんを買い戻してくれますか?」
「――――――ひ」

 その黒く濁った囁きに、ザドの心臓が凍った。女はその様子に満足そうに喉を鳴らすと、彼に提案をする。

「あなたに最後の希望を上げましょうか。はたして、あなたは今まで侍っていた私の名前を覚えているでしょうか? 答えられたら、命だけは助けてあげます」
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