魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ザドは、背中の鋭い痛みで意識をかろうじて保ちながら、必死に声を張り上げた。とはいえ、今まで関係を持った女の名前など、いちいち覚えてはいない。当てずっぽうで、聞き覚えのある女の名前を口に出す。

「あ、あれだ……! ジェニファー、レマ、ケリー、エリザベート、ドロシー! 違うか? アイリーン、キャス、セレイア、ロミー、ファラ、カイネリーテ、ミーシャ……! どれか、あってるだろうが!!」
「いいえ」

 次第に呂律が回らなくなり、彼の背中につぷっと刃が食い込みだした。温かいものが流れ、口からも吹きだす。しかしそれでもザドは諦めず、今までの女性たちに懺悔するよう、か細い声を絞り出した。

「やめて、くれぇ……なんでも、するからぁ! ニーナ、エルザ、ウィーシャ、シーリン! がはっ……ナンナ、テレサ、レスティ、クリス……ティーン……」

 次第にその声はつたなく、聞き取れないものになってゆき……。
 大量の吐血と共に、ザドは、最後に……。

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