魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ――五年前の在りし日……。私とディクリド様は、ファルメルの街の大きな教会で結婚式を挙げた。

 この地方の領主の結婚ということで、現地にはハーメルシーズ領のみならず、国内の様々な場所から多くの人が祝福の言葉を贈りに訪れたが……私にとってなによりも嬉しかったのは、この地で親睦を深めた人たちが直接言葉を掛けに来てくれたことだ。

『おめでとう! サンジュ、と~っても綺麗よ! 最高にお似合いののふたりだわ!』
『サンジュ。あなたなら、あなたにしかできない方法でディクリド様を支えてくれると信じています。お互い子供の顔が早く見れるとよいですね』

 真っ先に私の元に駆けつけてくれたのは、ハーメルシーズ領から譲り受けた新しい領地――ランツ領で先んじて結婚式を挙げたフィトロさんとリラフェン。それから……。

『まったくよぅ……。おうおう、おめぇらは若いのはすーぐにおっさんの立場を踏み越えて、手の届かねえとこへ行っちまうもんだからよぉ。孫みてえに思ってた下働きの時が懐かしいぜ。出世したもんだなぁ。よかったよかった、ぐすっ……』
『おめでとサンジュ。ハーメルシーズ伯の奥様だなんて、気軽に話しかけづらくなっちゃったわね。でもあなたなら、これからも私たちと分け隔てなく接してくれると信じてる。それでさ……ちょちょっと辺境伯夫人権限ってやつで私たちのお給料もかさ増ししてくれない? ……なんちゃってね』
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