魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 ちなみに、隣国のマルディール王国とは前回の戦を最後に一旦停戦期に入ったようで、今のところは平和な日々が続いている。彼の国も、ノルシェーリア王国の攻略に戦力を傾け過ぎたせいで、今度は自国の防衛で大変な時期が訪れているのだと風の噂に聞いた。
 それと反するように、大きく力を落としたように見えたハーメルシーズ領は瞬く間に勢いを盛り返し……表向きにも魔導具による発展の兆しを見せていることからも、しばらくは大規模な侵攻が行われることはないだろう、というのが王国政府の見解らしい。

 おかげで平和は続き、無事私はルシルや新しい従業員たちに色々なことを教え、晴れて、“辺境伯の御用達”を彼女に譲り渡すことができた。(その際に、お店の看板の形が新しいハーメルシーズ領の形に整えられるなどということもあった)。

 次いでリラフェンの懐妊と出産や、父ウドニスを始めとした王都で暮らしていた家族達の消息が途絶え、子爵位が放棄されたとみなされたという報告など……色々な出来事に心を揺さぶられたりもした。それらが一段落して、少しずつ周囲の状況の整理がついて時間に余裕ができた私は、やっと個人的な希望に手を付け始めた。

 数年前の研究成果――発見してから塩漬けになっていた、魔力そのものを抽出するための術式を、王国の魔導具局に提供したのだ。
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