魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 魔導具の世界は発展著しいし、数年経つ頃には、私たちの思いもつかない働き先が増えているかも知れない。きっと卒業生は王国各地に散らばることになるだろうけれど、それでいいのだ。この学校で学ぶことを選んでくれた人たちが、魔導具製作を生きるための仕事として習得し、やりがいをもって自分の人生を進んでいけるようにすること――それが、私たちの一番の目的なのだから。

 ――カラァン……。

 綺麗な音を立てて、学校の上部に設置されたチャイムが鳴った。創立記念式典及び、入学式開始の合図だ。
 生徒たちが私語を慎み、一様に壇上を向いて、私は一気に息を詰める。

(なにを話そうと思っていたんだっけ……)

 未だ大勢の人に向けて話すのが慣れていない私は、今朝まで必死に練習してきた演説の内容も頭から吹き飛んで、真っ白な頭を抱えてしまう。

 でも……大丈夫だ。なにかから逃げ出そうとはもう思わない。
 この胸の中に伝えたいことはちゃんとある。
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