魔導具店『辺境伯の御用達』 ーThe margrave's purveyorー(ザ・マーグレーヴス・パーベヤー)
 辛いことや大変なことから目を背けたくなるときはあるけれど、それでも一歩ずつ前に進むことができれば……きっかけをひとつ掴めるだけで、自分の中でなにかが変わる。それを私はここに来て教わることができたから、まずは皆にそれを聞いてもらいたい。

 そして……できればここにいる全員が自分の望みを叶えられるように、私たちなりに手を貸したいと思っていること……。一緒に目標を見つけ、彼らが自分の足で歩いて行けるよう、私たちの持つ経験で未来への道を照らせればと思っていること……。それらを分かってもらえるように、言葉を尽くそう。

 司会を務めてくれていた教員に肩書と名を呼ばれ、私は緊張に身を固めながらも、精一杯胸を張って生徒たちの前に姿を現した。
 一段高くなった壇上に上がると、私はより近い距離で生徒たちの表情を目にする。
 自信が無さそうな子も、疑いの眼差しを持つ子も、わくわくしている子もいる。彼らがどんな境遇で育ってきたかは分からない。私よりもずっと苦しい道を通ってきた人もいるかもしれない。でも、これから私たちの声を聞いてもらって、彼らの話も聞かせてもらって、それぞれが自分なりの目的を仲間と語り合えるような……ここをそんな場所にしていきたい。

 彼らが目指すところに真っ直ぐ向かっていけますように――そう願いながら、私はひとりひとりに向けて語り掛け始める……。

「……初めまして。ご紹介に預かりましたサンジュ・ハーメルシーズです。突然ですが、皆さんには、叶えたい夢はありますか――」
< 472 / 485 >

この作品をシェア

pagetop